当コーナーは、当協会筆頭理事である渡辺好明氏が学長を務める「新潟食料農業大学」のコラムを掲載してます。
食と農は多様に発展 農業は規模が小さい、高齢化で活力がない、儲からない、食料産業は飽食の時代で伸びないなどという人がいますが、「平均」の数字だけで見てはいけません。「農林業センサス」によると、食の基盤である「農」では、将来大きく成長していく分野、加工や販売で付加価値を高める分野へと多様な発展を続けていることが分かります。
面積規模と経営規模は別のもの 「耕地面積」の大小は、売上げなど「農業経営」規模の大小を表わしません。施設型の農業(土地節約型農業)であれば、小さな面積でも大きな売上げが可能です。土地利用型も農地の担い手への集約でEUレベルに近づいてきました。
経営者になろう いま農業収入が1000万円以上の経営体は12万を超え、まだ増え続けます。
農業従事者の平均年齢が65歳を過ぎ高齢化といわれますが、「経営者」と見るか「労働者」とするかで違います。経営者としては、大企業の社長と比べて大きな差はありません。
積極的な、研究熱心な、意欲的な、豊かな発想と高い技術、理解力を持った<産業人と
しての>農業経営者になってほしいのです。
グロ-バル化は農産物・食品に輸出のチャンス 海外では「ク-ルジャパン」といわれます。日本の農産物や食品、和食が外国から高く評価されて、輸出も伸びていきます。先進的な農業経営者は、すでに海外市場を視野に入れています。将来の需要のもとになる水面下の「シ-ズ」「ウオンツ」にも関心を持ちながら、伸びる分野を探しましょう。
IT時代の食料産業 これからの農業・食品関連産業は、高い技術と知恵を求めています。 農業生産の分野では、AIやICT、そして、精巧なGPS+ドロ-ンが革命を起こすでしょう。将来の期待があるからこそ、農業の法人化(近い将来に50000経営体)や青壮年クラスの新規参入が増えて、農と食の分野への企業参入も盛んになってきているのです。
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(渡辺こうめい)
学長コラム⑨ 食べ残しをゼロに NAFUの資源循環システム
環境には3つのRで ①Re・duce ‐減らす、②Re・use-再利用する、③ Re・cycle-
(原料に戻して)循環利用するの3つが基本とされ、食品にも同じことが求められます。
食品の廃棄量と「食品ロス」 日本での廃棄量は年間で1713万トン(1人当たり134kg)と大きな数字です。このうち、まだ食べられるのに廃棄されるものを「食品ロス」といい、飲食店などの事業系で339万トン、家庭系では282万トン、全体で621万トンがいわゆる「食べ残し」です。ス-パ-やコンビニからの返品処理も多く、家庭では、製造年月日・賞味期限に敏感で、古いと食べないで廃棄処分にすることなどが背景にあります。
食べられる部分なのに、食べられる状況なのに捨ててしまう食生活のあり方を見直して、貴重な食料を余さず無駄にせず「いただく」ことを考えましょう。
30-10運動 6~7年前に松本市で始まり、全国に広がりつつある運動です。「会食での食べ残しを減らし、食品の廃棄量を縮減するため、乾杯後30分間と終了前10分間は自席で食事することを呼びかけること」で、実際にも、長野県民のゴミ排出量は、全国最小です。
食品の消費期限、賞味期限と販売期限についても、真剣に検討する時期に来ました。
外食でもて余した食事には、「ドギ-バッグ」(持ち帰り)がお奨めですし、企業や家庭の「安全面で問題ないが処分せざるを得ない食品」は、「フ-ドバンク」を通じて施設などに提供する「セカンドハ-ベスト」も本格化させる必要があります。
「もったいない」は理想の表現 ノ-ベル平和賞のケニア人女性のワンガリ・マ-タイさんが、2005年の来日のときにいいました。マ-タイさんは、きっと、先ほどの「3つのR」に加えて、④Respect-食べ物、資源を大切することを強調されたのでしょう。世界食糧計画(WFP)の援助総量300~400万トン、日本の食べ残し621万トンを比べてみてください。
NAFUでも、大学内の循環システムをつくり、食堂や農場から排出される農産物・食品の残渣は、発酵装置を通して堆肥(たいひ)にし、農場に還元するようにしました。
*次回は、「食料産業はすばらしい仕事」です。 (渡辺こうめい)
学長コラム⑧-2 食べもので体をつくり、食べ方で心をつくる <その2 食育について考える>
「食育」とは何だろう 「食育」という言葉は古くからありましたが、大きく取り上げられるようになったのは、ここ15年ぐらいで、今では「食育基本法」もできました。「教育」を構成するのは、「知育」、「徳育」、「食育」、「体育」でこれらは関連し合って成果を得ます。
<禅宗>の寺院では、食事の場は徳育・教育の場にもなっています。「食堂」の名の由来は、禅宗の<じきどう>(食堂)から来ています。また、曹洞宗大本山の「永平寺」の僧侶の位では、「典座<てんぞ>=料理担当僧」が最も高いとされています。
食育基本法の標語は「早寝、早起き、朝ご飯」とシンプルなものでしたが、吉田松陰を生んだ山口県では、「食べもので体をつくり、食べ方で心をつくる」 と教えていると聞きます。
「共食」がポイント <カンパニ->(仲間・会社)の語源は「カン(一緒に)」「パニ(パンを食べる)」だそうです。歴史学者の藤原辰史さんは、「(子どもの)幸福追求の中心には食べものを据えるべきで、食べて考える、考えて生きる、そのためには食事らしい食事の機会、場所(居場所)が与えられなければならない」といいますが、全くそのとおりです。
そうなると、集い、食べる場としての家庭、学校、地域の連携プレ-が大事になります。お祭などの地域行事には、小中学校も休校にして参加し、伝統食を味わうといいでしょう。また、学校給食も「補食や栄養補給」の給食から「食文化」への転換が必要になります。
生産、調理、サービス、食事 食育では、フ-ドチェ-ンを意識することが重要になります。①校舎の壁やプ-ルサイドの高さを利用して土盛りし、サツマイモやダイコンを自ら作る。
②タイマ-つきの自動炊飯器(無洗米でも可)で昼のごはんを炊くなど自ら調理する。
③自ら生産、調理したごはんとおかずを「盛り付けサ-ビス」して、みんなで共に食べる。
NAFUでも学校農場を開放したり、農福連携の場にすることを考えてはどうでしょうか。
*次回は、「食べ残しをゼロに NAFUの資源循環システム」です。 (渡辺こうめい)
学長コラム⑧-1 食べもので体をつくり、食べ方で心をつくる <その1 食事と食器>
日本人の食の特徴 世界の人々の食事の仕方は、「手(右手)で食べる」、「スプ-ンで食べる」、「ナイフとフォ-クで食べる」、「箸で食べる」の4つに分類されます。さらに、箸食は、食器を「置いたまま」と食器を「手に持つ」の2通りに分かれ、日本人・和食は、食器を手に持つタイプになります。ごはん茶碗や汁椀を持つことで、食べ物を「感謝していただく(頂く)」形が自然にできて、「口中調味」が可能な「三角食い」や「稲妻食い」も容易になります。また、そうなれば、食器も<持ちやすく、食べやすい>形に進化します。「子ども茶碗」「女茶碗」といういい方がありますが、これは使い勝手から生まれましたし、「マイ(my)箸」にも、環境への配慮と使いやすさの両面があると思います。
割り箸と森林資源循環 日本でごく日常的に使われている割り箸には、便利・衛生的のほか、「神様に新しい箸で食べものを捧げる」という意味もあります。また、「森林保護のために使わない」との主張もありますが、国産材の場合には、逆かもしれません。製材の過程で「木っ端」が出ますが、捨てずに割り箸に加工し有効利用すれば、その利益を森林資源の循環・維持に向けられる利点があるからです。かつて、岩手県の林業地域で、学校給食の食器を保護者たちが手作りしていたことがありますが、これなどもすばらしい食育です。
桶(おけ)と樽(たる) 木材利用のついでに、食品を入れる・貯蔵する容器で似たもの同士、「桶」と「樽」の違いを知りましょう。両者の姿形と機能ですが、桶の場合には、なかの
食品の水分が容器に吸収されてべちゃつかない構造になるよう、柾目(まさめ)になっています。ごはんのおひつや寿司桶(半切り)がその例です。一方、樽の場合には、なかの水分を完全に遮断し、漏れないように、板目(いため)に取ります。醤油樽、酒樽などが、これに当たります。このように、食品の容器とその中の食べもののおいしさ、保存性とは密接な関係にあるのです。「柾目」と「板目」をインタ-ネットで調べてみましょう。
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次回は、「その2 食育について考える」 です。 (渡辺こうめい)